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東京高等裁判所 昭和38年(う)2033号 判決 1964年3月11日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役六月に処する。

但し、本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

被告人から金二〇万六〇〇〇円を追徴する。

理由

職権を以つて調査してみるのに、被告人が菅田恵治郎と共謀のうえ、所轄税関長の許可を受けることなく、駐留米軍人である前記ウエップから買受けた関税、物品税未納の原判示猟銃三挺のうち、レミントンM一一No、七二四〇九九及びウインチエスターM六二No、一八六九八二各一挺については、東京税関長のした右菅田恵治郎に対する本件と同一内容の関税法及び物品税法違反けん疑事件の昭和三八年一〇月二六日付通告処分において、同人に対し本件と同一の違反事実が認められ、関税法の関係法条により前者は没収不能として同人からその価額九六、三〇〇円が追徴され、後者は没収され、右通告処分は同三九年一月一〇日同人が履行していることが認められる(当審において検察官の提出した東京税関監視部審理課長作成名義の処分結果通知と題する書面添付の菅田恵治郎に対する通告書謄本参照)。然るに、原判決もまた被告人から右猟銃二挺を含む本件違犯に係る猟銃六挺全部を没収すべきところ、その没収ができない場合であるとして右価額合計三〇万二三〇〇円を被告人から追徴しているのである。然しながら、本件の如く二人以上の者が共同して関税法一一〇条一項一号違反の行為をして、その犯則貨物を同法一一八条一項により没収し、若しくはその没収できないとして同条二項により右犯則貨物の価額を追徴する場合において、既に共犯者の一人に対し没収若しくは追徴が行われ、犯則貨物の所有権又は犯則貨物の価額が国庫に帰属した後は、他の共犯者に対して重ねて追徴の言渡をすることは許されないものと解すべく(昭和二九年(あ)第三六八三号最高裁判所第一小法廷判決刑集九巻一三号二六〇八頁参照)、従つて原判決が被告人に対し前記追徴の言渡しをしたことはその当時においては正当であつたが、その後前記の如く菅田に対する通告処分により没収及び追徴が履行された現在、当審においてはもはや原判決の右追徴の言渡しを維持することを得なくなつたものというべく、原判決は既にこの点において破棄を免れないわけである。

よつて、量刑不当の論旨に対する判断を省略し、刑訴法三九七条二項、三八二条により原判決を破棄することとし、同法四〇〇条但し書に従い被告事件について更に判決する。

原判決の確定した事実に法律を適用すると、被告人の原告人の原判示所為中不正の行為により関税を免かれた各所為は、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う関税等の臨時特例に関する法律一二条、関税法一一〇条一項一号に、不正の行為により物品税を免れた各所為は、昭和三七年法律四八号物品税法附則一四条、右法律による改正前の物品税法一八条一項二号に夫々該当するところ、右はいずれも一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により各犯情重い関税法違反の罪の刑に従い、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により法定の加重をした刑期範囲内で被告人を懲役六月に処し、本件においては実質上の利得が菅田恵治郎及び荒木銃砲店(渋谷店)に帰属していること等の諸情状を考えて同法二五条一項一号により本裁判確定の日から三年間右刑の執行猶予することとし、なお、本件銃砲六挺は、関税法一一八条一項によりこれを没収すべきところ、右没収をすることのできないこと記録上明らかな本件では、同条二項により右犯罪の行われた時の価格に相当する金額を被告人から追徴すべきであるが、前記の如くそのうちレミントンM一一、ウインチエスターM六二各一挺の関係では重ねて被告人に対し追徴の言渡をすることができない場合であるから、その余の四挺分の価格計二〇万六〇〇〇円を被告人から追徴することとし、主文のとおり判決する。

(その余の判決理由は省略する)(裁判長判事三宅富士郎 判事井波七郎 谷口正孝)

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